Friday, January 20, 2012

TPPとカリフォルニア効果

※本稿はTPPの是非を問うものではありません。Vogel(1995)の"Trading up"を下敷きに論を進めています。


-カリフォルニア効果と国際貿易規制
「デラウェア効果(Delaware Effect)」と「カリフォルニア効果(California Effect)」という対概念をご存知でしょうか。これらは国際貿易と国際規制をめぐる動きを説明したものです。

国際貿易が隆盛するにつれ、自由貿易肯定論調が高まっています(自由貿易とは関税等を撤廃した貿易のことです)。他方で自由貿易を推進した結果国内産業が壊滅させられてしまうのではないかという懸念もあります。そのために規制がかかるわけです。
規制の中には関税と非関税障壁があります。非関税障壁をどのように定義するかが本稿のもう一つの焦点です。

前述の効果に話を戻しましょう。
デラウェア効果とは、デラウェア州が行った企業誘致の方法にその名前を由来しています。デラウェア州はアメリカの中で最も基本定款(corporate charter)にかかる金額が少ないことで有名です。他州と競いあった結果誘致に最も有利な金額設定を可能にしました。
カリフォルニア効果はこれもカリフォルニア州の政策に由来しております。こちらはCO2排出量に関わる規制で、カリフォルニア州はアメリカで最も厳しい規制を設定しました。当該州は比較的面積が広く豊かであったため、この結果企業は厳しい規制を避けるようにはならず、逆にカリフォルニア州の規制に合わせるようになりました。
まとめると、
・デラウェア効果:低い規制水準で企業誘致、企業のマネージャーが最も得をする。
・カリフォルニア効果:高い規制水準で企業誘致、環境と消費者が最も得をする。

カリフォルニア効果は、更にもう一つの概念「洗礼者と密造業者の連携(Baptism-Bootlegger coalitions)」に支えられています。これは2つのアクターの思惑が一致した場合手を組んで規制を強化するというものです。洗礼者は国内のお酒の消費量を減らしたいと考え、密造業者はお酒を闇市で売って儲けたいと考えています。密造業者はそのため市場にあるお酒を減らそうと、洗礼者と協力して規制強化運動を展開するようになります。
これは例えば(他国の同産業より優っている)国内産業と環境保護団体が手を組んで国内規制を守るといったものです。またこれにより貿易の自由度が高まれば高まるほど国内規制の呼び声が高まります。当たり前のように聞こえますが、これの帰結が先述したカリフォルニア効果です。


-非関税障壁

Vogelによれば非関税障壁の基準は
1,干渉が適切・必要か
2,規制の意図が非関税障壁とみなされるか
(あと2つVogelは挙げていますが、TPPとは関係無いので省略します。)

1は例えばEUのホルモン漬け牛規制です。EUはホルモンを注入された牛の輸入を消費者の安全と健康を理由に規制していますが、それが輸入を規制する理由として十分科学的に正しいかどうかが争われます。
2は、アメリカのメキシコからのマグロ缶規制です。これは非関税障壁ではないとみなされていますが、その理由は、アメリカの漁師を守るためではなく水資源を守るためであるからです。国内経済を理由にした場合非関税障壁とされてしまうところ、環境問題を理由にした場合には非関税障壁とはみなされませんでした。


-TPPとカリフォルニア効果
上記を踏まえて、カリフォルニア効果とTPPを結びつけてみます。
TPP(Trans-Pacific Partnership, 環太平洋経済協定または環太平洋パートナーシップ)は関税及び非関税障壁の撤廃を目的としています。

カリフォルニア効果が正しければ、この非常に自由度の高い貿易協定のもとでは日本国内が規制強化の方向に動くこととなります。ここでの規制とは非関税障壁以外のことです。それらは上述した非関税障壁の定義から考えられます。具体的には、1,極度に不必要な規制撤廃の回避、および、2,国内利益保護ではなく環境問題解消等の理由付け、です。TPP参加の是非を問う段階では国内産業保護の論は有効だったかもしれませんが、仮に参加をすることになった場合は前述の2点による規制以外は切れるカードがないことになります。
またここで面白いのが、デラウェア効果も同時に顔を出しているということです。アメリカによる軽自動車規格撤廃などがいい例ですね。これは環境ではなくビッグスリーの利益を考えた結果です。これにアメリカの環境団体がどのように反対しているかが気になるところです。日本にとって最も強力なBaptistは彼らですから。
TPPの話がもう少し話が進んでからまた書きます。


参考文献
Vogel, D. (1996) "Trading Up: Consumer and Environmental Regulation in a Global Economy"

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